日本分子生物学会 公開プレゼンテーション 2013
「生命世界を問う」      2013年12月6日(金)

Speakers

今回《生命世界を問う》6名の生命科学者をご紹介します。

大隅典子: “脳のカタチと働き〜心は分子でどこまで理解できるか”

吉崎悟朗: “未来の養殖~サバからマグロは生まれるか

黒田公美: “親と子~絆はどのように育まれるのか

永井健治: “少数性生物学〜タンパク質分子に個性はあるのか”

高井研: ”極限・宇宙生物学〜生命の起源はどこにあるのか”

芦苅基行: “イネの分子育種〜科学で食糧を増産できるか

  • 大隅典子
  • 吉崎悟朗
  • 黒田公美
  • 永井健治
  • 高井研
  • 芦苅基行
 
 た か い    け ん

高井 研

極限・宇宙生物学〜生命の起源はどこにあるのか

Profile 京都大学大学院農学研究科修了後、日本学術振興会博士特別研究員、科学技術振興事業団科学技術特別研究員、米国パシフィックノースウエスト国立研究所環境微生物学部門博士研究員を経て独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)で『微生物ハンター、深海を行く』(イーストプレス)やら『生命はなぜ生まれたのか—地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)をしてきた。現在JAMSTEC、JAXA、東工大ELSIで5つのポジションを兼任しており、論文の所属欄が膨大な分量になって、もはやなにがなんだかわからない状態になりつつある。一応主所属はJAMSTEC海洋・極限環境生物圏領域プログラムディレクター。
Abstract 私は割と真面目に、《生命の起源》を解明するためには、地球生物以外の生物を理解しないと無理ンゴ!と思っています。それは《人類の起源》の解明に人間以外の生物との相対的な比較が必要なのと同じように、地球生物と地球外生命との比較によって初めて、《生命とは何か》とか《生命の起源》についての一般解と特殊解のような本質的な理解に辿り着くことができると思うからです。とは言うものの、それでも多くの先端的な研究者の中には、あるいは一般の人々の中にも、そして勿論私の中にも、なんとなく《生命とは何か》とか《生命の起源》についての漠然とした一般的共有イメージがあるような気がします。それはまるで、ギリシャ哲学における《相対主義》vs《イデア論》《アリストテレス的科学》的構図のようにも思えます。でも別に自分のなかでも決着を付けていないので結論はありません(笑)。ぜひみなさんで議論しましょう。とりあえず「無礼な事を言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが分子生物学の分際で」と挑発しておきます。
 
 く ろ だ       く み

黒田 公美

親と子~絆はどのように育まれるのか

Profile 京大理学部では物理系だったがインド亜大陸を旅行するうち医学部(阪大)に転向。精神科研修医時代に親子関係の生涯にわたる影響に衝撃を受け、親子関係の脳科学を志す。McGill大学ポスドク後、理化学研究所 脳センター 特別研究員、2008年より現職。下の子が小さいため家でも親子関係にまみれており、生活にまったくゆとりがないのが今の悩み。「親子関係は脳科学では競争が少なく、自分の子育て経験も生かせる穴場的テーマです。若い研究者歓迎です!」
Abstract 人をはじめとしてすべての哺乳類は生まれた直後は親からの子育てに生命を完全に依存しています。3日間放っておかれたら確実に死んでしまうのです。そのために子どもは親を呼び、探し、しがみつき、注意を引いてお世話を引き出すためのいろいろな行動を生まれながらに備えています。時に親が養育を放棄したり暴力をふるう場合でさえ、幼い子どもは自ら親を拒絶することはなく、なんとかして親をなだめ、よい関係を取り戻そうと努力することが多いのです。このような幼いころの社会行動が大きくなってからの社会性の基礎を形作っていると考えられます。身の回りで、また自然界でごく普通に営まれている親子関係は親と子の不断の努力によって維持されており、そのために必要な感情や行動の脳内基盤には未知の部分が多く残されています。今回の講演ではその研究の一端をお伝えします。
 
 な が い      た け は る

永井 健治

少数性生物学〜タンパク質分子に個性はあるのか

Profile 大阪府門真市育ち。小学校の頃は歴史的建造物の造形に興味があり、一人で古都をママチャリで巡る一方、校内工作大会では3年連続受賞するほどモノづくりが好きであった。中学ではバイクに興味を持ち工業高校に進学しようとするも挫折し普通科へ。高校時代に読んだ本がきっかけでバイオテクノロジーの面白さに目覚めたが、勉強がからっきしできず、宅浪&放浪の旅の末、筑波大学生物学類へ進学。卒研は両生類の初期発生、修士ではX線顕微鏡、博士ではマウスの神経発生、ポスドクではGFPテクノロジーと目まぐるしく研究テーマを変えた。2001年からJSTさきがけ研究で「光らない蛍光タンパク質」を作る研究に没頭して超過酷な「虎の穴」生活を経験。その苦行を乗り越え2005年に北海道大学教授、2012年からは大阪大学教授。得意技は「酒に溺れながらの科学談義」。先を見通さず今を生きることをモットーとする。座右の銘は「自我作古」。
Abstract 「生命とは何か」――永井健治が解き明かしたい疑問であり、同時に科学が解き明かすべき最も大きな課題のひとつでもある。多くの研究にもかかわらず未だに大腸菌を人の手で作り出すことさえできない。では、これまで得られた知見で何が足りないのか?何を知れば良いのか?永井は先ず教科書に書かれている「前提」や「法則」を疑うことから始めた。そこで行きついたのは、細胞内にある生体分子の「数」と「個性」についての常識だった。教科書では「数」は莫大、「個性」は考慮されていない。しかし実際は、遺伝子は1細胞中にたった2個しか存在せず、その2個は明らかに違う個性を有している。従来の生物学では莫大な数の遺伝子とタンパク質を反応させ、何が起きるのか調べている。実際とは異なる反応をさせて得た結果から、細胞内で何が起きているかを類推できるのだろうか?生物の反応にかかわる分子が、莫大数存在すると仮定していいのか?同じ種類のタンパク質でも違う個性を持っているとしたら?荒唐無稽な疑問をどんどん投げかけ、生命の根源に迫る、「少数性生物学」について永井が熱く語る。
 
  あ し か り      も と ゆ き

芦苅 基行

イネの分子育種〜科学で食糧を増産できるか

Profile 高校時代、アフリカの食糧問題を知り農業分野を志す。イネの遺伝育種学を学んでいた大学院時代、つくばの農業生物資源研究所を中心に進められていた「国際イネゲノムプロジェクト」に懇願して参加、イネの分子生物学を学ぶ。学位取得後、2000年名古屋大学・生物機能開発利用研究センター助手、2003年同助教授、2004年同准教授、2007年から同教授。研究ネタは圃場にありを信条とする。分子生物学的な実験のスピードはもう学生に及ばないが、田植え、交配、収穫等の農作業のスピードはまだ学生を圧倒している。夏は農作業で真っ黒。
Abstract  人類が存続していく上で必要不可欠な「食糧」、その安定供給に危機が迫っています。飽食な日本では食糧危機をあまり実感することはありませんが、世界に目を向けると深刻な食糧問題が見えてきます。2009年、国際連合食糧農業機関(FAO)は世界の栄養不足の人口が10億人を突破したと発表しました。食糧供給の不安定化は政治・経済・文化・宗教問題など様々な要因が複雑に絡みあっており一筋縄には解決できません。  人類の活動エネルギーの約50%はイネ(23%)、コムギ(17%)、トウモロコシ(10%)のわずか3つの植物から得られています。そこで、我々は上記の問題の解決の一助となるようイネの生産性向上の研究を進めています。近年分子生物学の発展で植物科学分野においても多数の有益な知見が蓄積してきました。例えば、収量性、病害抵抗性などを制御する遺伝子が同定され、それらの機能も明らかになってきました。本発表では、バイオテクノロジーを利用したイネの改良(育種)と世界に向けた普及プロジェクトについて紹介します。
 
  お お す み      の り こ

大隅 典子

脳のカタチと働き〜心は分子でどこまで理解できるか

Profile 鎌倉生まれ、逗子育ち。東京医科歯科大学歯学部に入学後、やはり基礎研究をせんと顔面発生分野の研究室にて大学院博士課程を修了後、1989年より同大学助手。1996年より国立精神神経センター(当時)神経研究所室長を経て、1998年より現職。脳の発生発達、その異常としての精神疾患病態メカニズムの研究に従事。サイドプロジェクトとして科学コミュニケーションの推進にも携わる。東北大学サイエンス・エンジェルのゴッドマザー。最近はお茶のお稽古に行けず、HOTヨガで日頃のストレス解消。
Abstract 心はどこにあるのか?——人が抱くこの根源的な問いに関して、現代では少なくとも「脳」という臓器が関わることに多くの人々が賛同する。脳の働きを理解するために、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使った観察が為され、脳も細胞から構築されることがわかり、電気的な神経伝達や神経細胞間での化学物質の受け渡しが証明された。神経活動依存的に神経細胞の中で新たに分子が作られたり運ばれたりして、神経細胞同士の繋ぎ目が変わることも知られるようになった。神経細胞の産生が一生涯続くことも明らかになった。だが、私たちはどこまで脳を理解できたかといえば、天文学でいうコペルニクス以前の状態に近い。銀河の星の数ほどもある脳細胞たちがどのように作用しあっているのか、まだごく一部だけが見えているにすぎない。ここ最近どんどん開発されつつある洗練されたツールにより、脳科学は今、心を理解する過程において新たなブレイクスルーを迎える前夜なのかもしれない。
 
  よ し ざ き      ご ろ う

吉崎 悟朗

未来の養殖~サバからマグロは生まれるか

Profile 鎌倉の海のそばで育ち、魚について学ぶことを夢見て、東京水産大学(現東京海洋大学)に進む。大学3年生まではひたすら釣りに明け暮れる。卒業研究で研究の楽しさに目覚め、山梨県の山奥にある大学附属の養殖研究施設に6年間こもって研究に没頭する。1993年から米国テキサス工科大学で研究員を行うが、砂漠の中の水のない生活に疲れ、1995年に東京水産大学助手となる。2012年から東京海洋大学教授。専門は魚類の発生工学であるが、目指していることはあくまでも世界の魚を守ること。
Abstract 世界中のマグロが危機的な状況にある。大西洋のクロマグロやミナミマグロは絶滅危惧種に指定され、太平洋のクロマグロも、資源量の減少が危惧されている。これらの問題を解決するためのひとつの方策は、マグロの稚魚を大量生産し、これを海に放流することである。しかし、クロマグロは体重が100 kg程度にならないと成熟しないため、稚魚生産用の親魚の飼育には莫大なスペース、コスト、労力が必要である。そこで、私たちは小型で飼育が容易であり、分類的にもクロマグロと近縁種であるサバにマグロを生ませることを考えた。私たちは既に、卵や精子の元になる生殖細胞をニジマスから取り出し、これをヤマメに移植することでニジマスを生むヤマメを作り出すこと、さらには、自らの卵や精子を生産しないように処理を施したヤマメに、ニジマス生殖細胞を移植することで、ニジマスしか生まないヤマメを作出することにも成功している。現在、サバ科に属する種々の小型種にマグロの生殖細胞を移植し、マグロの代理親探しを進めている。